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鉄道計算工学研究室紹介(赤間 誠)

卒業研究テーマと概要

  近年、地球環境問題への関心の高まりから、環境に優しい鉄道の優位性や経済性、安全性があらためて見直され、米国、ブラジルや中国等、世界各国で新たな鉄道プロジェクトが推進されています。2013年度より、本学科に鉄道工学コースが設置されましたが、本研究室は、この鉄道工学コースの一翼を担う研究室として新設されました。  本研究室では主に、計算工学の鉄道への応用を目指しています。新幹線や磁気浮上式鉄道などの構造物及び構造機器を研究・開発するためには、強度、振動、騒音などの様々な現象を解明する必要があります。これらの現象をコンピュータを用いた数値解析で解明する分野が計算工学です。計算機環境の目覚しい性能向上に伴い、大規模並列計算や解析手法の統合など高度シミュレーション技術を導入し、これまでに未解明であった様々な鉄道固有現象の問題解決に向け、種々の解析を取り組もうと考えています。計算工学は、幅広い分野を包含しており、その適用対象は無限に存在しますが、シミュレーションの最も重要な特徴は、「予測」能力です。現象を正確にモデル化し、適切な物性値や境界条件・初期条件を設定し、精度よく解くことができれば、それを使って未来予測を行うことができます。実現象の発生に先だって、様々な定量予測を行うことができる計算工学を、これまで以上に積極的に活用すべきであると考えています。
  本研究室で実施した過去のいろいろな「予測」研究例を紹介します。



研究例1 低応力・低騒音の軽量車輪の開発

  鉄道車両用の波打車輪は、圧延車輪の板部を円周方向に波打たせて剛性を高めたもので、その分板厚を薄くでき、通常の車輪と比較して約10%の軽量化が可能であるとされています。現在国内で使用されている波打車輪は、走行時に軌道からの反力によって板部に発生する応力が、通常の円周方向に波を打たせない車輪と同等になるように設計されています。図1に、踏面ブレーキによる熱応力対策を施した新A形波打車輪(NAC車輪)を示します。

図1 新A形波打車輪
  しかし最近、NAC車輪の転動騒音が大きくなる傾向があることが分かってきました。騒音問題は交通輸送機関にとって重要な課題であり、鉄道においても沿線に及ぼす影響に配慮し、その低減を図ることが社会から求められています。同時に列車速度の向上と省エネルギー対策も重要であり、今後はより耐ブレーキ熱性能に優れた軽量車輪の開発も必要です。
  本研究では、有限要素法(FEM)を用いて応力解析及び振動解析を行い、さらに得られた構造振動を境界条件とした境界要素法(BEM)による騒音解析を行いました。その結果、質量及び剛性はNAC車輪と同等で、板部に発生する応力を大幅に低減でき、同時に騒音も低減できる板部形状をもつ車輪が得られました。図2にその形状の概要を、踏面ブレーキによって発生する応力と共に示します。

図2 低応力・低騒音車輪
  また図3に、NAC車輪と比較した騒音レベルを示します。それぞれの解析結果は、実際に試作した車輪を用いた実験及び既存車輪の現地測定結果と比較し、検証も行いました。

(a) NAC車輪の場合

(b) 新形状車輪の場合
図3 音圧レベルの分布(輪重34kN, 速度100km/h)


研究例2 転がり接触疲労によるき裂発生の予測

  鉄道においては、車輪とレール間の転がり接触疲労(RCF)によってレール頭部表面にき裂が発生する場合があります。これらのき裂は表面または表面直下の塑性変形層で発生し、短いき裂として進展したのち長いき裂となり、傾斜したままで継続的に進展する、いわゆる水平裂進展が起こります。進展したき裂は、その後分岐が起こり、分岐き裂である横裂の進展によってレール破断にいたる場合もあります。解明すべき点はき裂の発生時期、短いき裂進展速度、水平裂進展のメカニズム及び進展速度、き裂の分岐時期、横裂進展のメカニズム及び進展速度、最終的な不安定破断時期で、それらが正確に究明できれば、安全性の確保と同時に経済的な保守計画の作成も可能となります。
  疲労き裂発生までの寿命は全寿命法によって解析します。解析には汎用FEMソフトを用い、図4に示すように車輪−レール及び車軸のFEMモデルを別々に作成し、レールモデル頭部上で車輪モデルを転がすことにより解析を行いました。RCFでは、接触表面下の材料領域は非比例的な多軸荷重サイクルを受けるため、疲労寿命予測にはエネルギー密度基準及び限界面組み合わせモデルを採用しました。解析対象区間は、曲線半径610m及び730mの曲線部で、レール鋼はHH340です。

図4 FEMモデル
  解析の結果、き裂発生までの車輪通過数は、曲線半径610mの場合は0.59×105〜1.19×105、730mの場合は0.69×105〜1.39×105となりました。このような解析によって、検査周期を適切なものにすることが可能となります。